Vol.69 ニューヨークでポエトリー・スラムに行く


今回のNY旅行は滞在先がイーストビレッジだったので、ポエトリー・スラムに行ってきました。スラムとはポエトリー・リーディング(詩の朗読)の一種です。詩人が詩を朗読すると、聴衆からランダムに選ばれた複数のjudgeが10点満点で採点して優勝者を決めます。詩について聴衆はおおいに声をあげて反応しよう、というものです。
詳しくは http://www.poetryslam.com

NYではNuyorican Poets Cafe、その姉妹店Bar 13、Bowery Poetry Club、と三つのスラムが行われています。三つとも行ってきたので、ちょっとご紹介します。

Bar 13まず、ニューヨークに到着した月曜夜にBar 13 (35 E 13th St)のスラムに行きました。私が行った三つの中ではここが一番おもしろかったです。Nuyorican Poets CafeやBowery Poetry Clubは有名で伝統もあって、ステージや客席もきちんとしているし朗読者や客も「ニューヨークの変わった人」と聞いて日本人が想像できる範囲内の人達、という感じです。Bar 13のスラムは私が行った日が第一回目で、ステージも客席も混沌としていて密な空間になっているし、朗読者や客も日本人の想像の範囲を超えたヘンな人達(笑)でした。NPCやBPCに比べてもっと「ナマ」で生き生きとした印象を受けました。
ここの朗読者達はみんな自分の詩を暗記していて、「自分の気持ちをなんとか聴衆に伝えたい」という気迫と工夫に満ちていて、すばらしかったです。パフォーマンスとしての完成度が高く、輝いていてグイグイ引きこまれてしまいました。聴衆も、ソファや床に思い思いに座ってノリ良く声をかけていて、グッと集中した熱い空間ができあがっていました。夜9:00〜11:30頃までで、終わった頃のお店の周りの人通りは寂しいですが、ニューヨークに慣れている人なら歩いて帰れる程度です。チャージ$5 。
  Bar 13 http://www.bar13.com

Nuyorican Poets Cafe水曜夜はNuyorican Poets Cafe (236 E 3rd St)のスラムに行きました。ここは有名です。ステージもちゃんとしていて、客席はテーブルと椅子がきちんと整えられています。聴衆もBar 13に比べるとおとなしい感じで、Bar 13のように場がどんどん熱くなって集中が高まっていく感じは受けませんでした。日によってもちがうと思いますが・・。
MC(司会)のNathanはApollo Theaterも含めあらゆる舞台を踏んだそうで、すばらしいMCでした。全ての人をあたたかく歓迎して、盛り上げ上手で、間があくとすかさずつまらない冗談をしゃべり始めちゃうよ・・という楽しい人でした。お店の人が「ステージの端にも座っていいよ」というのでステージの上に座っていると、Nathanが私に朗読者をくじで選ぶ役をやらせてくれました。で、私のことをみんなに紹介してくれて、そうしたら周りの人がどんどん話しかけてくれて、とっても楽しい夜になりました。こういうイベントは、前のほう、中心の方に行ってどんどん参加するとますます楽しめるんだなあ、と実感しました。夜9:00〜12:00頃までで、終わると人通りは寂しいですが、みんな歩いて帰っていました。チャージ$7 。カフェといってもバーがあるだけで食べ物はないようでした。
  Nuyorican Poets Cafe http://www.nuyorican.org

木曜夜はBowery Poetry Club (308 Bowery St)に行ってきました。ここもすごく有名で、スラムの全国大会National Slamを過去3回優勝しているUrbanaのスラムが毎週木曜夜に行われます。今回はNational Slamから帰って来たばかりのUrbanaの報告とオープンマイクで、スラムはやりませんでした。今年のNationalではUrbanaは優勝を逃したそうで、Nationalの悪口をバンバン言っていました。
Urbanaは髪が黒とピンクで両腕は刺青がにぎやかで、泥棒と詐欺師とヘロイン中毒者の家庭に生まれ、結婚式は墓場で挙げたそうです。そんなUrbanaの8才の娘さんはものすごくまともで普通の女の子なのが、おもしろかったです。娘さんは、Urbanaが汚い言葉でののしるのをキャッキャと楽しそうに聞いていて、かわいらしい詩を一つ朗読しました。ここもステージ、会場ともちゃんと整っていて、軽食の出るカフェと詩集の委託販売をしている小さな本屋があります。
この日は夜7:15〜9時頃までで、終わった頃も人通りはにぎやかで余裕で歩いて帰れました。チャージ$6 。向かいがCBGBなので続けてライブに行くのもいいかも?
  Bowery Poetry Club http://www.bowerypoetry.com

日本のポエトリーリーディングに4回、NYのに3回行っただけの私なので、あくまで私見にすぎませんが、以下に感想を少し・・。日本とNYで朗読される詩に明らかにちがいがあって、とても興味深かったです。

1.まず、詩の内容が明らかにちがいました。あくまで私の聞いた詩ですが、日本で朗読される詩は自分の内面や自分探しについてのものが多いと思いました。引きこもり、不登校、リストカット、アダルトチルドレンなど・・。友人の死についての詩も、その友人の内面について歌う詩でした。
NYで聞いた詩は、社会、アメリカンドリームや民主主義、政治、人種、9・11、イラク戦争、同性愛などについてのものが多かったです。NYは世界中のお金持ちが集まりアメリカンドリームの光の部分が誇示されている街で、自由の女神像等アメリカンドリームの象徴もあって・・でもイーストビレッジに集まっているこの若者達はまさにアメリカンドリームの陰の部分を生きている人達で、アメリカ社会の矛盾と欺瞞を告発する言葉が吐き出されていました。例えば友人の死についての詩も、「彼が育った地域に住む人は最初からチャンスなんて与えられていない。このままだと銃で撃つか撃たれるかという未来しかない。そんな銃と共にある未来から抜け出すために、彼は教育を受けたいと願った。大学の奨学金を得るために軍に入った。そしてイラクで銃で撃たれて死んだ。」と、銃や暴力から抜け出そうとしても出口のない姿を描いて、アメリカ社会を批判する内容のものでした。警察や体制は自分達を攻撃するものだという、体制の敵としての自覚を持っていました。特に黒人の人達は、自分たちに向けられてきた差別と今のイラクでの軍活動を結びつけるものが多かったです。
そして、「こういう現状を変えるべく行動するべきなのは自分自身だ」という意識、現状を変えるだけの力や勇気のない自分への苛立ちをぶつける詩がたくさんありました。

2.また、日本で聞いた詩は一回聞いただけでは内容がよくわからないものが多かったのですが、NYで聞いた詩は一回聞けば内容がよく分かるものが多かったです。これは一つには、日本で聞いた詩は自己の内面についてのものが多かったので抽象や例えが多かったからかもしれません。もう一つは、日本の詩がどちらかというと自分のために書かれたようなものが多かったのに対し、NYの朗読者達はすごく聴衆を意識していて「自分の言っている事が聴衆に伝わって欲しい」という気持ちが強いように思いました。それは良いのですが、詩が説明的すぎるし長すぎる、詩というよりむしろ演説では?と思えるような詩も多かったです。

以上はあくまで私が聞いた詩についての私個人の感想で、日本やNYの詩について一般化できる話ではありません。以下も私個人の感想ですが、これらスラムで聞いた詩は、詩としては決して質の高いものではなくて、まだ道半ばという印象を受けました。ただ、こうやってイーストビレッジに集まる若者達が「人に聞いて欲しい」と心を砕いているのは何なのか、強く伝わってきました。そしてその「他人に伝えたい」という気迫と工夫によるパフォーマンス全体として見ると、すばらしいものも多々ありました。

今もあの熱気に包まれた夜々を懐かしく思っています。

2004/08/22

  



Another New York Vol.69
「ニューヨークでポエトリー・スラム」
Text ふぃふぃ
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